相続不動産の売却方法と税金計算

相続不動産の売却について

相続した不動産を売却するケースは非常に多く、特に相続人が遠方に住んでいて管理が困難な場合や、相続税の納税資金を確保する必要がある場合、複数の相続人で公平に分配する「換価分割」を行う場合などに売却が選択されます。

相続不動産を売却する際には、通常の不動産売却と同様に「譲渡所得税」が課税されます。ただし、相続ならではの特例制度がいくつかあり、これらを適切に活用することで税負担を大幅に軽減できる場合があります。

売却にあたっては、まず相続登記を完了させて不動産の名義を相続人に変更する必要があります。被相続人の名義のままでは売却できませんので、売却を検討している場合は早めに相続登記を済ませましょう。

❗ 売却前に相続登記が必要です

不動産を売却するには、売主の名義で登記されている必要があります。相続した不動産は被相続人の名義のままですので、売却前に必ず相続登記(所有権移転登記)を完了させてください。2024年4月からは相続登記が義務化されており、3年以内に登記しないと過料の対象にもなります。

売却の流れ

相続不動産を売却する際の一般的な手順は以下のとおりです。全体で3~6ヶ月程度かかるのが一般的です。

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    相続登記の完了

    不動産の名義を被相続人から相続人に変更します。遺産分割協議書が必要な場合は、先に協議を完了させましょう。

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    不動産会社への査定依頼

    複数の不動産会社に査定を依頼し、適正な売却価格を把握します。相続不動産の場合、建物の状態や権利関係の確認も重要です。

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    媒介契約の締結

    売却を依頼する不動産会社を選定し、媒介契約を締結します。専任媒介契約、専属専任媒介契約、一般媒介契約の3種類があります。

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    売却活動・購入申込み

    不動産会社が広告掲載や内覧対応などの売却活動を行います。購入希望者からの申込みがあれば、価格や条件の交渉を行います。

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    売買契約の締結

    購入者との間で売買契約を締結します。手付金(売買価格の5~10%が一般的)を受領します。

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    決済・引渡し

    残代金の受領と同時に、所有権移転登記を行い、物件の引渡しを完了します。司法書士が登記手続きを行うのが一般的です。

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    確定申告

    売却した翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行い、譲渡所得税を納付します。特例の適用を受ける場合も申告が必要です。

譲渡所得税の仕組み

不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して所得税・住民税・復興特別所得税が課税されます。これらを総称して「譲渡所得税」と呼びます。

譲渡所得の計算式

譲渡所得 = 売却価格 − 取得費 − 譲渡費用 − 特別控除

取得費について

取得費とは、不動産の購入価格(建物は減価償却後の金額)に購入時の諸費用(仲介手数料、登記費用、不動産取得税など)を加えた金額です。相続で取得した不動産の場合、被相続人の取得費を引き継ぎます。被相続人の購入時の契約書があれば、その金額を基に計算します。

取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として使用できます。ただし、実際の取得費が5%を超える場合は、できるだけ実際の金額を特定した方が有利です。

譲渡費用について

譲渡費用とは、売却するために直接かかった費用のことです。具体的には以下のものが含まれます。

  • 仲介手数料(売却価格の3%+6万円+消費税が上限)
  • 印紙税(売買契約書に貼付する収入印紙代)
  • 測量費用(土地の境界確定が必要な場合)
  • 建物の解体費用(更地にして売却する場合)
  • 立退料(賃借人がいる場合)

所有期間による税率の違い

譲渡所得に対する税率は、不動産の所有期間によって大きく異なります。所有期間は売却した年の1月1日時点で判定します。相続の場合は被相続人の取得日から起算されるため、多くのケースで長期譲渡に該当します。

不動産の譲渡所得税率(所有期間別)
区分所有期間所得税住民税復興特別所得税合計税率
短期譲渡所得5年以下30%9%0.63%39.63%
長期譲渡所得5年超15%5%0.315%20.315%

短期と長期で税率に約2倍の差があるため、所有期間は売却時期を決定する上で非常に重要な要素です。相続不動産の場合、被相続人の所有期間を引き継げるため、被相続人が5年超所有していた不動産であれば、相続後すぐに売却しても長期譲渡所得の税率が適用されます。

⚠ 所有期間の判定に注意

所有期間は「売却した年の1月1日時点」で判定します。実際の所有年数ではないことに注意してください。例えば、2020年4月に取得した不動産を2025年6月に売却した場合、実際の所有期間は5年2ヶ月ですが、2025年1月1日時点では4年9ヶ月(4年)となり、短期譲渡所得に該当します。2026年1月以降の売却であれば長期譲渡所得となります。

特例・控除制度

相続不動産の売却には、税負担を軽減するためのいくつかの特例制度があります。

取得費加算の特例

相続税を納付した人が、相続開始の日の翌日から3年10ヶ月以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。これにより譲渡所得が減少し、結果として譲渡所得税が軽減されます。

加算できる金額 = その人の相続税額 × 売却した財産の課税価格 ÷ その人の相続税の課税価格(債務控除前)

被相続人の居住用財産の3,000万円特別控除

被相続人が一人暮らしをしていた自宅(居住用財産)を相続した場合に、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例です。2027年12月31日までの売却が対象です。

主な要件は以下のとおりです。

  • 相続開始の直前に被相続人が一人暮らし(老人ホーム入所も一定条件で可)
  • 昭和56年5月31日以前に建築された建物(旧耐震基準)であること
  • 相続の時から売却の時まで、事業・貸付・居住に使用されていないこと
  • 売却価格が1億円以下であること
  • 耐震リフォーム済みまたは建物を取り壊して更地で売却すること

💡 取得費加算の特例と3,000万円控除の併用

取得費加算の特例と被相続人の居住用財産の3,000万円特別控除は併用できません。どちらか有利な方を選択して適用することになります。一般的に、相続税額が大きく売却益が少ないケースでは取得費加算の特例が有利で、相続税額が少なく売却益が大きいケースでは3,000万円控除が有利です。

譲渡所得税計算ツール

相続不動産の売却に関する情報を入力して、譲渡所得税と手取り概算額を計算できます。

売却情報

万円

不動産の売却価格(税込)を入力してください

万円

不明の場合は売却価格の5%で計算されます

万円

仲介手数料・印紙税・測量費用等の合計

税率・控除

所有期間(売却年の1月1日時点)

⚠ この計算結果はあくまで概算です。正確な金額は税理士にご相談ください。税制改正により計算方法が変更される場合があります。

よくある質問

相続した不動産の所有期間はいつから数えますか?
相続で取得した不動産の所有期間は、被相続人(亡くなった方)が取得した日から起算します。つまり、被相続人の所有期間を引き継ぐことができます。例えば、被相続人が20年前に購入した不動産を相続して売却する場合、所有期間は20年超となり、長期譲渡所得の税率(20.315%)が適用されます。なお、所有期間は売却した年の1月1日時点で判定します。
取得費が不明な場合はどうすればよいですか?
被相続人の購入時の契約書や領収書が見つからず取得費が不明な場合は、売却価格の5%を取得費(概算取得費)として計算できます。ただし、概算取得費を使うと取得費が低くなり、譲渡所得が大きくなる傾向があります。購入時の不動産会社や金融機関に問い合わせる、登記簿の抵当権設定額を参考にするなど、実際の取得費を特定する努力をすることをお勧めします。
3,000万円特別控除は相続不動産にも使えますか?
はい、一定の要件を満たせば相続した不動産にも3,000万円の特別控除を適用できます。被相続人が居住用として使用していた不動産を相続し、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却した場合に適用可能です(被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例)。なお、この特例は2027年12月31日までの売却が対象です。
取得費加算の特例とは何ですか?
取得費加算の特例は、相続税を納付した人が相続開始の日の翌日から3年10ヶ月以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。これにより、譲渡所得を減らし、譲渡所得税を軽減することができます。加算できる金額は「その人の相続税額 × 売却した財産の課税価格 ÷ その人の相続税の課税価格」で計算します。