自筆証書遺言の書き方と注意点
自筆証書遺言の要件
自筆証書遺言は、民法第968条に基づき、遺言者が自ら手書きで作成する遺言書です。費用がかからず手軽に作成できる反面、法律で定められた厳格な要件を満たさなければ無効となります。以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
- 全文の自書:遺言の本文は全て遺言者が自分の手で書く必要があります。パソコンやタイプライターで作成した場合は無効です(財産目録を除く)。
- 日付の自書:作成した年月日を正確に自書する必要があります。「令和7年1月15日」のように特定できる形式で記載します。
- 氏名の自書:遺言者のフルネームを自書します。戸籍上の氏名を記載するのが最も確実です。
- 押印:遺言書に押印が必要です。実印・認印・拇印のいずれでも法律上は有効ですが、実印の使用が推奨されます。
⚠ 要件を1つでも欠くと無効になります
自筆証書遺言は方式が厳格に定められており、日付の記載忘れ、押印の漏れ、一部をパソコンで作成するなど、要件を1つでも欠くと遺言書全体が無効になります。作成後は必ず全ての要件を満たしているか確認しましょう。特に高齢者が作成する場合は、作成時の判断能力(遺言能力)が問題となることもあるため注意が必要です。
書き方の手順
自筆証書遺言を作成する際は、以下の手順に従って進めましょう。
- 1
財産の洗い出しと整理
まず、自分の全財産を把握しましょう。不動産(登記簿謄本で確認)、預貯金(金融機関名・支店名・口座番号)、有価証券、生命保険、借入金などをリストアップします。財産目録を作成しておくと遺言書の作成がスムーズです。
- 2
相続人の確認
戸籍謄本を取り寄せて、法定相続人を確認します。相続人の正確な氏名と続柄を把握しておくことが重要です。遺留分の割合も確認し、遺留分を侵害しない範囲での分配を検討しましょう。
- 3
遺言内容の検討
誰にどの財産を相続させるかを具体的に決めます。「長男の山田太郎に自宅の土地建物を相続させる」のように、財産と受取人を明確に対応させます。予備的遺言(指定した相続人が先に亡くなった場合の対応)も検討しましょう。
- 4
下書きの作成
いきなり本番の用紙に書くのではなく、まず下書きを作成します。文言が法的に適切か、財産の特定が十分か、遺留分に配慮しているかを確認します。不安な場合は弁護士や司法書士に下書きを見てもらいましょう。
- 5
遺言書の清書
下書きを確認したら、便箋や遺言書用紙に清書します。全文・日付・氏名を自筆で丁寧に書き、最後に押印します。書き損じた場合は、民法の定める方法(変更箇所の指示・変更した旨の付記・署名・押印)に従って訂正するか、新しい用紙に書き直しましょう。
- 6
封入と保管
完成した遺言書は封筒に入れて封印し、安全な場所に保管します。法務局の自筆証書遺言書保管制度の利用もおすすめです。保管場所は信頼できる人に伝えておくか、エンディングノートに記載しておきましょう。
書き方のポイント
財産の特定を明確にする
遺言書で最も重要なのは、財産を明確に特定することです。不動産は登記簿の記載に従い、所在・地番・地目・地積(土地の場合)、所在・家屋番号・種類・構造・床面積(建物の場合)を正確に記載します。預貯金は金融機関名・支店名・口座番号まで記載しましょう。「全財産を妻に相続させる」という包括的な記載も有効ですが、個別に指定する方がトラブルを防ぎやすくなります。
受取人を正確に特定する
財産を渡す相手は、氏名と続柄(または生年月日・住所)で特定します。「長男」だけでなく「長男 山田太郎(昭和60年1月1日生)」のように記載すると確実です。相続人以外への遺贈の場合は、住所・氏名・生年月日を記載して相手を特定します。
「相続させる」と「遺贈する」の使い分け
法定相続人に財産を渡す場合は「相続させる」、法定相続人以外に財産を渡す場合は「遺贈する」と記載します。この使い分けは不動産の登記手続き等に影響しますので、正確に使い分けましょう。
付言事項の活用
遺言書には法的効力のない「付言事項」を添えることができます。遺産の分配理由や家族への感謝の言葉を記すことで、相続人の理解が得られやすくなり、紛争防止に役立ちます。「長男には介護の負担をかけたので多く遺します」といった説明を加えると効果的です。
財産目録について
2019年1月13日施行の民法改正により、自筆証書遺言に添付する財産目録についてはパソコンで作成することが認められました(民法第968条2項)。これにより、多数の財産がある場合でも遺言書の作成が容易になりました。
パソコンで作成した財産目録や、不動産の登記事項証明書のコピー、預貯金通帳のコピーを添付することもできます。ただし、以下の点に注意してください。
- 財産目録の各ページに遺言者の署名・押印が必要です
- 両面に記載がある場合は、両面それぞれに署名・押印が必要です
- 遺言書の本文は必ず自筆で書く必要があります(パソコン不可)
- 財産目録は遺言書の本文とは別の用紙に作成します
💡 財産目録の作成のコツ
財産目録は表形式で作成すると見やすくなります。不動産は登記情報をそのまま転記し、預貯金は金融機関名・支店名・口座種別・口座番号を一覧にまとめましょう。通帳のコピーを添付する方法が最も簡単で確実です。
法務局保管制度
2020年7月10日から、法務局(遺言書保管所)で自筆証書遺言を保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」が開始されました。この制度を利用することで、自筆証書遺言のデメリットであった紛失・改ざんのリスクを解消できます。
保管制度のメリット
- 紛失・改ざんの防止:法務局が原本を保管するため安全です
- 検認が不要:法務局で保管された遺言書は家庭裁判所での検認手続きが不要です
- 方式の確認:保管申請時に法務局の職員が遺言書の外形的な方式を確認してくれます(内容の審査はしません)
- 通知制度:遺言者の死亡後、相続人等に通知される制度があります
保管制度の利用方法
保管の申請は、遺言者本人が遺言書保管所(法務局)に出向いて行います。代理人による申請はできません。申請の際は、遺言書(無封のもの)、申請書、本人確認書類(運転免許証など)、住民票の写し、手数料3,900円が必要です。用紙のサイズはA4サイズで、片面のみに記載し、一定の余白を確保する必要があります。
無効になるケース
自筆証書遺言は、以下のようなケースで無効となります。作成時には十分に注意しましょう。
- 本文をパソコンで作成した場合:財産目録を除き、本文は全て自筆でなければなりません
- 日付が特定できない場合:「令和7年1月吉日」など、日付が特定できない記載は無効です
- 日付の記載がない場合:日付のない遺言書は無効です
- 署名がない場合:遺言者の自署がない遺言書は無効です
- 押印がない場合:押印を欠く遺言書は無効です
- 他人が書いた場合:遺言者以外の者が書いた遺言書は無効です
- 共同遺言の場合:2人以上が同一の遺言書で遺言した場合は無効です
- 遺言能力がない場合:認知症等で判断能力が欠けている状態で作成された遺言書は無効とされることがあります
⚠ 訂正方法にも注意
遺言書の訂正は、変更箇所を指示し、変更した旨を付記して署名し、変更箇所に押印する必要があります(民法第968条3項)。この方式に従わない訂正は無効となりますので、大幅な変更が必要な場合は、新しい遺言書を書き直すことをおすすめします。