遺留分侵害額請求の方法と計算
遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、遺言や生前贈与によって自分の遺留分が侵害された場合に、侵害された額に相当する金銭の支払いを請求する制度です(民法第1046条)。2019年7月1日の民法改正により、従来の「遺留分減殺請求」から名称と内容が変更されました。
改正前の遺留分減殺請求では、遺留分を侵害する遺贈や贈与の効力を一部取り消し、財産そのものの返還を求めることができました。しかしこの方法では、不動産が共有状態になるなど新たな紛争の原因となることが多くありました。改正後の遺留分侵害額請求は金銭の支払いのみを請求する権利であるため、より円滑な解決が可能になりました。
遺留分侵害額請求の対象となるのは、遺留分を侵害する遺贈(遺言による財産の移転)と贈与(生前贈与)です。複数の遺贈・贈与がある場合は、まず遺贈から減殺し、それでも遺留分を回復できない場合は新しい贈与から順に減殺していきます。
ℹ 遺留分侵害額請求のポイント
- 遺留分を侵害された相続人が行使できる権利
- 金銭の支払いのみを請求する(現物返還ではない)
- 請求しなければ遺言の内容がそのまま有効
- 知った時から1年、相続開始から10年で消滅
請求の時効・期限
遺留分侵害額請求権には、2つの期間制限があります。いずれかの期間が経過すると、請求権は消滅します。
相続の発生
被相続人の死亡により相続が開始します。遺言書がある場合は、その内容を確認します。
消滅時効の起算点
相続の開始と遺留分が侵害されていることの両方を知った時点が起算点です。遺言書の内容を確認した時点が通常の起算点となります。
消滅時効(1年)
遺留分侵害を知った日から1年以内に請求権を行使する必要があります。まずは内容証明郵便で請求の意思を通知しましょう。
除斥期間(10年)
遺留分侵害を知らなくても、相続開始から10年が経過すると請求権は消滅します。除斥期間は中断・更新ができません。
⚠ 時効を止めるには内容証明郵便を
消滅時効(1年)が迫っている場合は、まず内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思を通知してください。意思表示が相手に到達すれば、時効は更新されます。金額が確定していなくても、請求の意思を通知するだけで有効です。時効完成後に通知しても効力はないため、早めの行動が極めて重要です。
請求の手順
遺留分侵害額請求は、以下の手順で進めます。まずは相手方との交渉を試み、解決しない場合は調停・裁判へと進みます。
- 1
遺留分の侵害を確認する
遺言書の内容や生前贈与の状況を確認し、自分の遺留分が侵害されているかを判断します。遺産総額、法定相続分、遺留分割合を把握し、実際に取得できる金額と遺留分額を比較します。遺産の評価が必要な場合は、不動産鑑定士や税理士に相談しましょう。
- 2
遺留分侵害額を計算する
遺留分額(遺産総額 × 遺留分割合)から、実際に取得した(取得予定の)金額を差し引き、侵害額を算出します。生前贈与の加算や債務の控除も考慮する必要があります。正確な計算には専門家のサポートが有効です。
- 3
内容証明郵便で請求の意思を通知する
遺留分侵害額請求の意思を相手方に内容証明郵便で通知します。これにより消滅時効の完成が猶予されます。内容は、遺留分が侵害されている事実、請求する金額(概算でも可)、支払いを求める旨を記載します。
- 4
相手方と協議・交渉する
内容証明郵便の送付後、相手方と金額や支払い方法について協議します。合意に至った場合は、合意書を書面で作成し、双方が署名押印します。できれば公正証書にしておくと、不履行時の強制執行が容易になります。
- 5
協議が整わない場合は調停を申し立てる
当事者間の話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。調停では、調停委員が間に入って話し合いを進めます。調停でも解決しない場合は、訴訟(裁判)に進むことになります。
- 6
訴訟(裁判)を提起する
調停が不成立の場合は、地方裁判所(請求額が140万円以下なら簡易裁判所)に遺留分侵害額請求訴訟を提起します。裁判では証拠に基づいて遺留分侵害額が確定され、判決または和解により解決します。
遺留分侵害額計算ツール
遺産総額、遺留分割合、実際に取得した額を入力して、遺留分侵害額(請求可能額)を計算できます。
遺留分侵害額計算ツール
遺留分割合は前ページの計算ツールまたは割合表で確認できます。
相続財産+生前贈与加算額−債務の合計
遺言や贈与により実際に受け取る金額
遺留分額
遺産総額 × 遺留分割合
-
遺留分侵害額(請求可能額)
遺留分額 − 実際の取得額(マイナスの場合は侵害なし)
-
⚠ この計算結果はあくまで概算です。正確な金額は税理士にご相談ください。税制改正により計算方法が変更される場合があります。
内容証明郵便の書き方
遺留分侵害額請求の最初のステップは、相手方への内容証明郵便の送付です。内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれる特殊な郵便です。時効の完成を防ぐためにも必ず利用しましょう。
記載すべき内容
- 差出人と受取人:自分の氏名・住所と相手方の氏名・住所を正確に記載します。
- 被相続人の情報:被相続人の氏名、死亡年月日、最後の住所を記載します。
- 遺留分侵害の事実:遺言の内容や贈与の事実を具体的に記載し、遺留分が侵害されている旨を明記します。
- 請求の意思表示:遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する旨を明確に記載します。
- 請求金額:正確な金額が算出できている場合は金額を記載します。算出できていない場合は「遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求します」という形でも有効です。
- 回答期限:通常2週間〜1ヶ月程度の回答期限を設定します。
💡 内容証明郵便の送り方
内容証明郵便は、郵便局の窓口で差し出します(一部の郵便局のみ取り扱い)。同じ内容の文書を3通用意し(差出人用・受取人用・郵便局保管用)、封をせずに郵便局に持参します。費用は通常の郵便料金に加えて、内容証明加算料金(1枚440円、2枚目以降は260円追加)と配達証明料金(320円)がかかります。電子内容証明(e内容証明)を利用すれば、インターネットで24時間送付が可能です。
調停・裁判による解決
家庭裁判所の調停
当事者間の協議で解決しない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停は、裁判官と調停委員2名で構成される調停委員会が仲介して、話し合いによる解決を目指す手続きです。申立て費用は収入印紙1,200円と連絡用郵便切手です。
調停は通常1〜2ヶ月に1回のペースで開かれ、解決までに3〜6回程度(6ヶ月〜1年程度)かかることが多いです。調停で合意に達した場合は「調停調書」が作成され、確定判決と同じ効力を持ちます。
訴訟(裁判)
調停が不成立の場合は、地方裁判所(請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所)に訴訟を提起します。訴訟では、遺留分侵害の事実、遺留分額の計算根拠、侵害額などを主張立証する必要があります。判決までに1年〜2年程度かかることが一般的ですが、和解により早期に解決することも少なくありません。
| 解決方法 | 申立先 | 費用(実費) | 期間の目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 当事者間の協議 | — | 内容証明郵便代のみ | 1〜3ヶ月 | 柔軟な解決が可能・合意書作成 |
| 家庭裁判所の調停 | 家庭裁判所 | 印紙1,200円+切手 | 6ヶ月〜1年 | 調停委員が仲介・非公開 |
| 訴訟(裁判) | 地方裁判所 | 請求額に応じた印紙 | 1〜2年 | 判決で確定・公開裁判 |